「おにいちゃん、またボランティアにいくの」
「それをいっちゃぁ、おしめえだよ。さくら、にいちゃんは長田の人に会いたいんだよ」
「おにいちゃんはほんとに人がいいんだから」
「招き猫みてえなもんだ。人寄せだって長田に人がきてくれりゃうれしいじゃないか」
「まねき寅よね、おにいちゃんは」
「今年は寅年、いいことあるよ、さくら」
「さむいだろう。飲んでいきな。長田の人のあったかさのつまったカッフィをよ。」と寅さんに誘われて1.17ながたの集いで、炊き出しのコーヒーをいただいた。寅さんは1995年1月17日地震のときに、この長田にいた。
「あの時はてえへんだったねぇ。お天とさまが、まっ赤にもえてよ、そりゃもう町が泣いてたよ。あにきのところも被災したのかい?」
「全壊でね、わけもわからず、気づいたら15年。やっと借金もすくなくなって
」
「そりゃそうだろうよ、あの状況ではみんなおいらと同じよ、根無し草だもんなぁ。世界同時不況だぁなんて言っているけど、まだ住む所があるだけましってもんだ。雨風寒さをしのげて、おまんまも食えるし、水も出てりゃいいってもんだ。あにきもつれえ思いをしたんだね。まぁ今年は寅年、元気で生きてりゃ必ずいいことあるよ。」
寅さんのものまねで山田洋次監督公認の「元祖寅さんガイド」の野口よういちさんは、夜行バスで金曜日から神戸へこられて、1.17震災の日まで、神戸の人たちをはげますために東奔西走。
「あの長田の映画で寅さんは終わった。渥美清さんもきっと復興したながたに来たかっただろうに。だから震災の日、ぼくが代わり、ボランティアにきました。だけど、逆においらの方が元気づけられちゃって。」と。「今日おふくろが急に具合悪くなっちゃって、ほんとは長くながたにいたいんだけれど今日新幹線で葛飾へかえります。あばよ、あにきもたっしゃでな。生きのびようぜ」と寅さんにはげまされた15年目の震災の日。2010年1月17日「震災の日」記 797
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