生まれ月が春だからか、子どもの頃から花が好きだった。だから、兵庫のこのへんの桜はいつ頃咲くなんてことは、感覚でわかる。同じ桜でも、遅い桜もある。桜と言っても、一重のしだれ桜はソメイヨシノよりも早い咲くし、アーモンドの花、観た目には桜とおんなじでこれも早い。八重の里桜は遅く咲く、関西では「里桜が散ればもう遅霜は来ない」とも言う。そんな種類なんてどうでもよく、「桜咲く」とみんな言っている。人によってはももの花とさくらの花の区別 のつかない人も居る。人生の楽しみが半減している。

　花をめでる。やっと暖かくなってきた、さぁ活動開始というとき桜の花が咲く。だから「種蒔桜」なんて、大切に名前をつけた桜が数多くあったりする。私の仕事仲間のデザイナーに「GOROchan」「MOEchan」とハードディスクに名前を付けている人が居る。コンピューターでもMacファンは名前なんかつけていたりする。それとおんなじ。大切にするものに名前をつける、それだけでやる気も違う。気持ちも違う。「ハードディスクはHDや機械や。名前がいる？」そんな人は風流でない。人も機械も相手にしてあげれば、応えてくれる、そう思わないと。機械もだれも相手にしてくれなくなる。

　人には大切にするものが違う。自分のまわりのものは、たとえ他人とはおんなじものでも違うんだ、そんな心意気で名前もつける。「改札口で〜」と歌いだすと「その五郎とは違います」って言われても、会話が楽しい。「もしかして、歌のちょっと苦手なごろうちゃん？」「違います、カップヌードルのごろちゃんです」「つよしちゃんでなくてよかった」「野口五郎さんも好きですよ、でもそのGOROchanとはちがいます」好きなんだ、おもしろい。そんな思いが多い人のほうが、ええデザインも出来るんやろなぁ、って。人の好みはわからない事も多い。そのためにデザインも存在する。

　お肉が食べられないデザイナーさんが居た。食事に一緒に行けば、そんな会話が成立する。そのデザイナーさんに無理難題な仕事をお願いしていた。大好きだというフルーツをバスケットに入れて持ってったった。「あのぅ、入院するわけじゃないんですけど」って言いながら、嬉しそうだった。その人が大切にしているものを、こちらも大切にする。印象に残っているお花見がある。ある社長さんが料亭からお重弁当を手配してくださり、美味しい料理を満開の桜のしたでいただいた。「播州人は人とものを大切にする」そう言って世界遺産、姫路城での花見を催してくださったのだ。ありがたい。感謝。　　　　

〜平成の大修理で天守閣が見えなくなる2009年春満開。