「あぁ駅長さん、鉄道マニアの子どもがユースに泊まりにきていて。備後矢野の駅スタンプは無いの? 福塩線乗った記念にスタンプ押したいって」子どもが大切にしている山と渓谷社が出している『スタンプでめぐる鉄道の旅』のスタンプ本には、備後矢野駅のスタンプを押すところは存在するのだが、JRのホームページには駅スタンプは存在しないことになっている、と。「幻のスタンプだ」と子どもは言う。
「ふたつもスタンプあるの?それなら、子どもに押させてあげて」と自然の森M.G.ユースホステルのオーナーは電話口でお願いしてくださってる。ユースホステルのぬ
しであり世話役の福本弘昭さんは「駅職員を常駐できないから民間委託でね、田舎の駅も営業努力せんとねぇ。たいへんな時代。売り上げがなければ駅を運営できないから、駅でそばを販売したりね」
「駅長さんが一番列車走る前に、スタンプ持って来てくれるけェ」一瞬わが耳を疑った。子どもは「お宝だぁ」と目をきらきらさせている。ユースホステルに泊まらなければ、スタンプはないと告知されているのだから、せっかくここまでやって来たけど諦めるしか方法はなかったのだ。
「先代の森岡まさ子おかあさんは、旅人が困ってたらなんでもしてくれたんよぉ。地域に根ざして、原爆で被爆した旦那さんを守り、町の人と助け合いながらユースを守ってきたからね。あれほどまでに、人のため、地域のため、に活躍してくれた人はいなかったぁ。おもてなしの心っていうのは森岡さんみたいな人のこどじゃけぇ」と福本さんは言う。「だから今もM.G.ユースは、旅人の願いならかなえてくれるんよ。そのむかしはMGサービスステーション言うて人の集まるええところでねぇ、それに町の人たちは優しゅうて。このユースに寄り添ってくれる」
翌朝早く、駅長さんはわが息子のためにスタンプを持って出勤前に来てくださった。もちろん子どもは感激して、懸命にスタンプを押す。「よぉきんさった、これからどこ行くの?あぁ、芸備線の急行ちどりリバイバル列車に乗んなさる。いいなぁ、私も懐かしい列車に乗りたいなぁ」そう言われ満足げな小鉄はニコニコ顔で駅長さんと写
真を撮る。
「ユースに人が来んようになって、さびしい。ここ備後矢野温泉もええ温泉やのに、温泉ブームのわりには人が来なくなった。昭和の時代は秘湯とか、山のいで湯とかはそれだけで、一度どんなところか行ってみようとおもぉたもんよ。それが今の時代はみんなが行く処にしかいかんようになって。自分がみつけたステキな旅先や出会った人を、他の人に紹介したり、ユースで人に勧めたりせんのかな」と福本さんは不思議がる。
息子はこの旅を一生忘れはしないだろう。初めてユースに泊まり、自然の森M.G.ユースで出会えた人たちのことを。そう、旅は出会いなのだから。イルカさん「雨上がりの夏」を聴きながら。2013.8.31@ディスティネーションキャンペーンと言うわけわからんところがおしい、広島県。備後矢野 自然の森M.G.ユースホステル
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