えりも岬へバスはぁ、走る。
窓に広がる青い海と山には桜が咲きみだれ・・

開発を逃れた桜が咲くえりも町庶野桜公園の桜

 旅する人にとってはえりも岬というのは、だれしも魅かれるものがある。何かしら、そう失われた時を取返してくれるような。旅人なら、一度は行ってみたいと思う場所・名前なのだ。私は高校時代からこの北の大地のえりも岬に行きたかった。そう山本コウタローさんの名曲「岬めぐり」を聞きながら。大学時代、山本コウタローさんのラジオ番組のアシスタントをしていた。「関学の貴公子」と言うありがたいニックネームを山本コウタローさんからつけてもらいかわいがっていただいた。しかし、本人はその当時は馬の名前かリングネームみたいだと思っていた。別 に「走れコウタロー」の山本コウタローさんにつけてもらったからではない、なんとなく馬の名にぴったりだと思ったのだ。「岬めぐりに、馬がぁあ走るぅー」私がそう歌いながら北海道えりも岬をはじめて訪れたのが1989年。窓からは青い海が広がり、競走馬が牧場を走る。それ以外は目に付かない。あの頃は何を思って電車に揺られ、バスに揺られたのか、もう思い出せないが。岬というと灯台があって、波が押寄せる海岸があって、バスが走る、その程度しか想像できないが、えりも岬は違った。

  デカイ岬だなぁ、そして強い風が吹くこと以外何もなかった、北海道のデカサを表してるような気がした。何もない春です、襟裳岬の歌そのもののようにも思えた。ただ、驚いたのはこの岬の先で海に浸かって昆布漁をしている人たちを見たことだ。見ているこちらが海のそこに吹き飛ばされそうな強風の中、平気な顔して昆布を捕っているのだ。生活していくと言うのは、これほど厳しいことなのだ。風速10メートル以上の日が270日もあるという岬。そして襟裳はむかし荒れた大地だったという。その荒れた大地に住む人たちが牧草を植え、痩せた大地を肥沃にし、そして森を作ったと言う。樹を植えた男と言う童話があるが、それを実践した人がこの日本の北の大地にいる。なんとも誇らしいではないか。

  旨いえりも昆布もそうだけれど、桜にしても自然が厳しいところの方が美しく、人の琴線にふれるのだなぁ。たとえ今年の春、花を付けなくとも、まだ見ぬ 春を想像しながら、またひと冬待てるのだ。ながい夢を見るように 。北の大地の桜はそんな思いを抱かせてくれる。遠き春よ、はやくこい。
  なんとこの岬の先には、野生の大きなアザラシが群生している。それにも驚く。ここえりもには桜が多い。「昔はエゾヤマザクラが本当に至る所に桜が咲く、花の町だった」と庶野公園でお花見をしていたおばあさん達に聞いた。確かに太い桜の木も多い。1955年には北海道観光地百選にも選ばれたそうだが、1970年代にこの地域の開発がはじまり、無残にも桜はなぎたおされた。この開発は途中で失敗したので、なんとかいくらかの桜は残った。

  その後、町が桜の成育する地域を買収、「庶野(しょや)桜公園」として残されている。開発がなかったら、今ごろは山全体が桜の名所として人がもっと集まった事だろうに。いま以上に1970年までは桜があったわけだから、それを聞くと本当におしい気がする。現在、公園内には約600本の桜があり、自生のエゾヤマザクラ、カスミザクラを合わせると千本以上と言われている。そう言えば最近えりも岬には、岬の絶壁をくりぬ いた人工物が出来たそうだ。これも私には観光に名を借りた乱開発だと思う。のちの時代、なんでこんな良い自然景観をこんなモノで汚したんだと言われなければいいのだけれど。「岬の先まで歩けないお爺さんやお婆さんのために」と、さも優しさふりまく体で言う開発屋。そこで見せられるものといえばビデオを、やれハイビジョンだマルチビジョンだと言って金取って見せるのがおちだろう。そんな家庭のテレビモニターで見れるものを見たいために、人は旅するとでも思っているのだろうか。


 「えりも」はアイヌ語の「えんるむ」から。「えん・るむ」は、突き出した頭、つまり岬のこと。全国に名高い日高昆布・えりも昆布の約5割を生産している。

*このページの製作年は1997年、データ内容は当時のものです*

このえりも岬の先の岩場にはアザラシが生息する。 岬の先まで歩いていけば肉眼でも春の時期は観察出来る。 また春はえりも昆布の採集野季節だ。
えりも岬の馬牧場にいた道産子(どさんこ)と言われる農業や荷運びのために飼われていた馬。 北海道ではこの馬に1トンからの荷をつなぎ競争するバンエイ競馬がさかんだ。

 

撮影は1997年5月14日
場所
北海道幌泉郡えりも町庶野 
交通
飛行機で新千歳空港からレンタカーが便利、約200キロ4時間半。
帯広空港から黄金道路で約130キロ2時間半。
お問い合わせ先
えりも町役場01466-2-2111

 

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