むらがりて いよいよさびし 糸桜
           

三重県名張市赤目四十八滝延寿院枝垂れ桜

 その姿かたちに感動する桜もある。雷が落ちたりして木が半分やられているのに、残る半分でなんとか生きていこうと言う生命力あふれる木がある。そんな木を見ると、自分がその時置かれている状態によって色々な思いがかけめぐる。私は阪神大震災で全壊した事務所をどうしようか・・とずっと悩んでいたのだが、2年目の春にこの桜を観て今の状況を良くしていこうと決心した。「木を見て森を見ず」なんて言葉があるが「木を見て人生を知る」と言うこともあると私は思う。三重県名張市と言うより赤目四十八滝と言ったほうがとおりが早い。紅葉で有名な赤目四十八滝にに有る延寿院枝垂れ桜は、そんな思いのする桜だ。



 

 私は枝垂れ桜が好きで、旅して桜を見て歩くようになってから、枝垂れ桜にも色々な桜があることを知った。枝垂れ桜と言えば私の感覚では紅色の強いものだった。それは私が庭で日々見ていたのがベニシダレだったからである。桜を見て歩くほど桜好きになった大学時代、母校のベニシダレの強い印象もあるだろう。

  しかし、枝垂れ桜を見ていくうちにイトザクラと呼ばれる花の色が淡紅色の可憐な枝垂れ桜が好きになってきた。枝垂れ桜はエドヒガン(学名)の枝の垂れたものだが、江戸彼岸桜自身が変異の多い桜だそうで地方によって花の感じも全く違っていたりする。また呼び名も地域によって違う。アズマヒガン「東彼岸」、ウバヒガン「姥彼岸」、タチヒガン「立彼岸」と呼ばれたりする。特に東京方面 ではない地域ではエドヒガンとは言われていないような感じだ。エドヒガンはなにも江戸が元祖ではなく、東京でエドヒガンが多く栽培されていたからだそうだ。エドヒガンは寿命が長く、根尾谷村の淡墨桜武川村の山高神代桜大屋町の仙桜などは樹齢千年以上のエドヒガンの大木として国の天然記念物にも指定されている。そのどの桜も淡紅色、もしくは白色の可憐な花をつける。それと同じ花を付け枝垂れる桜が、いつからか一番好きになったのだ。

 ここ延寿院枝垂れ桜は白い花を付ける。その地名どうり「長坂」の長い坂道を登ると枝垂れた枝に白い花がたくさん見えてくる。美しい桜だなぁ、奥にはこの桜が植わる延寿院がある。上の写 真を見ればだれしも「綺麗な形だなぁ」と思われるだろうが、この桜の植わっている延寿院の境内側から見ると驚く。下の写 真がそうなのだが、半分の枝がえぐり取られている感じなのだ。お聞きすると「落雷で木が半分になった」とのこと。観ているうちに、この桜の生命力に驚かされた。そして、また花の咲く正面 に廻ってみた。同じ桜か、と疑いたくなる。花は可憐だが華やかだ。しかし裏舞台は壮絶だ。花に隠れてわからないが。花を付け、子孫を増やそうとする生きるものなら当り前の行為がこんなにも壮絶で、そして美しいものなのか。その姿にしばし茫然とした。

*このページの製作年は1996年、データ内容は当時のものです*

撮影は1996年4月18日
場所 
三重県名張市赤目町長坂  
交通
 近鉄大阪線赤目口駅下車、三重交通バス赤目滝行きで約10分
問い合わせ先
名張市役場0595-63-2111
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