世中にたえてさくらのなかりせば
春の心はのどかけらまし
                     在原業平

岡山県落合町吉念寺の醍醐桜
 

 冬から春にかけての毎日どんよりとした雲の多い日本海側の気候のことは知ってはいたが、瀬戸内海側とこれほどまでに違うのかと思ったのは1998年の春。島根県三隅の大平桜を見に行った神戸への帰り道、大雨のなか米子自動車道の摺鉢山トンネルを抜けたとたん。なんと、岡山は快晴ではありませんか。中国山地のあっちとこっちでは大違い。それで帰る予定を変更して、中国自動車道落合ICでおりて樹齢700年の巨木「吉念寺の醍醐桜」にまた会いに行った。その名の由来は後醍醐天皇が隠岐に流されたとき、 その道中にこのさくらを愛でたからとに言い伝えからこの名前が付いた。 とにかくでかいさくらの樹。一度見るとこれが桜の木か・・と圧倒され、その生命力の素晴らしさに感動してしまう。

  これで4度目だが、何度も観たい桜なのだ。姿が良いのです、あるときは男らしく見えたかと思うと、西日を浴びて妖艶につやっぽく見えたりと、それはもう1日中観ていても、決して飽きない。前回1997年にこの樹に会いに来たときは以前観た面 影もないほどやつれていて、花もポツポツ、さびしいかぎりだった。その年は「天候不順で花が咲く前にウソが蕾を食べてしまった」と地元の人に聞いた。ウソとは全長15センチほどの頭とホホが黒い色した鳥。ウソのような話だが、本当のはなし。野鳥図鑑には「木ノ実を食べるほか、サクラやウメの花芽を好む」とある。蕾がさぁ、咲こうと言うときに低温になり、花が開かぬ 状態が続くと彼らにとっては最高の味わい時だそうです。桜の花の蕾が食べられるのも、その年の気候が大きく左右されるいい例なんだろう。それが今年は地元の人が驚くほど花のつきがいいとか。さっきまで大雨の日本海に居て、いまは快晴の満開の桜見物。しばらくポカンと口が開いたままだった。

  自然とは不思議なもので、人間のはかり知れないところで、どんな法則があるのだろうかと思ってしまう。特にこのような巨木は私たちと違って何百年も生きてきたわけですから、毎年同じわけが無い。ちなみに一般 的なソメイヨシノの桜の木は、接ぎ木で苗を増やすこともあって、花がすぐ咲くが、その分弱くて50年くらいもてば良い方だと植木屋さんは言う。排気ガスにさらされている桜の木は、もっと寿命が短いとも。そして、「桜切るバカ、梅切らぬ バカ」と言う言葉があるくらい、桜の木と言うのは枝を折ることで、そこからてきめんに弱ってくる木なのだ。花見酒に浮かれてくれぐれも桜の木の枝など折らないようにと思うのは桜好きだけか・・。もし、折れたりしていたら、そこから雨水などがしみ込み腐らないように、ペンキなどを塗るなどの処置を。また、みなさんのまわりでここのさくらの樹はすばらしいという桜をご存知の方はぜひメールでご紹介ください。そして、あなたもさくらのお花見の旅にでもでかけてみませんか。

*このページの製作年は1998年、データ内容は当時のものです*

「アズマヒガン」
(エドヒガンと同じ、地域により呼び名が違う中国・四国地方はこう呼ぶ)
推定樹齢700年とも千年とも、根元周囲9.2メートル、
枝の広がりが四方10メートル伸び、高さ20メートルある。
撮影は1998年4月7日
開花情報
1996年4月10日開花17日見頃
場所 
岡山県真庭郡落合町吉念寺集落
交通
 中国自動車道を使って落合ICから
20キロの山間で道は狭いので
春のお花見時期は運転に要注意。
大型バスは桜まで行くのは不可能。
JR姫新線美作駅下車、タクシーで約40分。
問い合わせ先 落合町役場0867-52-1503
1972(昭和47)年2月9日岡山県の天然記念物指定
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